んどん ―地球は小さかった?―

 僕は長野県の上田市に今、住んでいる。上田で住み始めてからはじめて知ったのだが、ここは山極勝三郎という研究者の出身地だということだ。山極博士の名前を知っている人は少ないかもしれない。しかし、山極博士はノーベル賞候補にもなった非常に重要な発見をした研究者だ。

 ガンという病気がまだ、どういったものか分かっていない時代だ。煙突掃除をする人がよくガンになることから、石炭から出る物質がガンを引き起こすのではないかと考えられたが、その証拠が得られなかった。そこで、山極先生はコールタールをウサギの耳に何日も何日も繰り返し塗り付けることによりガンが発生しないか、という実験をした。非常な苦労の結果、ガンができることを明らかにした。この研究結果により、化学物質がガンを引き起こすという仮説が証明された。この成果が高く評価され、ノーベル賞候補に推されたのだが、惜しくも受賞には至らなかった。

 この結果を受けて、コールタール中のどの物質がガンを引き起こすのかを明らかにしたのがロンドンにあるガン研究所の研究者たちだ。ガン研究所はさらに化学物質がどのようなメカニズムでガンを引き起こすのかという点について研究を進めた。この研究所は僕が上田に住むことが決まる前に留学した場所だ。そこでは世界中からガン研究者が集まってがん研究にしのぎを削っている。研究者たちは休憩時間になっても、研究所にある娯楽室でダーツやビリヤードをしながら、ガンについて熱くディスカッションをしていた。僕は重金属がDNAに及ぼす影響についての研究を一年かけてじっくりと行った。

 ロンドンと上田。遠く離れた土地が自分の専門の研究でつながりがあった。それは、全くの偶然だった。

 地球は大きいようで小さいのかもしれない。