らんなー ―地方の大切さ―
僕は走ることが好きだ。ジョギングをすると気分がすっきりする。だから、前に勤めていた大阪市立環境科学研究所では、陸上部に入っていた。研究所の陸上部は全員、長距離走の選手で駅伝のチームを作っていた。毎年、大阪市の職員の陸上大会があり、所属対抗で競争をした。大阪市にはたくさんの部署がある。その多くの部署が駅伝チームを作り、この大会に参加していた。圧倒的に強かったのが消防チームだった。彼らは本当に速くて全く太刀打ちできなかった。環境科学研究所のチームも上位ではなかったが、真ん中よりは少し上くらいの順位だったと思う。僕も選手として、その大会で毎年のように走っていた。駅伝は面白い競技だ。チームのために必死で走る。調子のいいときは自分の実力以上の結果が出て、逆に悪いときは気持ちが空回りして、信じられないほど悪いタイムになった。
大阪市立環境科学研究所はいろんな分野の研究者集団が大阪市の環境を分析する機関だった。最新の研究が最新の考察や技術につながる。だから、大阪市の環境を保全するために、最新の研究をしていなければいけない。昆虫の専門家、カビの専門家、水の専門家、大気の専門家、いろんな研究者がわいわいがやがやにぎやかに研究を行っていた。
環境汚染は地域、地区により状況が違う。異なる環境では異なる汚染があり、異なる影響が生じる。そのため、環境汚染を見極め、対策を打つには地区ごとに現地を熟知した人間によって行われるべきだと考えられる。汚染が発覚したら、地区ごとの環境についての状況と情報を把握し、それにあった施策を打つ必要がある。そうした各地のデータを国が収集し、管理し、利用するのは無理がある。やはり、そうした仕事はそれぞれの地方の行政が担うべきであろう。そして、そのためには大阪市立環境科学研究所のような各地方にある環境研究所が重要な役割を担うと考えられる。
行政改革が叫ばれ、多くの行政機関が合併、縮小を余儀なくされている。日本各地の環境研究所もその影響を受けている。大阪市立環境科学研究所も例外ではなく、最近、組織の改編が行われ大阪府の研究所と統合し、大阪健康安全基盤研究所と大阪市立環境科学研究センターとなった。
地球温暖化、異常気象、マイクロプラスチック問題など環境問題は現在も様々な形で社会に影響を与えている。こうした中、地方の環境研究所は各地の環境問題を守るためにきっちりと研究機関として存続していくべきだと僕は考える。
長距離走は研究と似たところがあるように思う。研究はスタートからゴールまでの道のりが長い。いろんな論文を読んで、今、何が問題か、どのようなことが分かっていないか把握する。そして研究のアイデアを考える。アイデアが出てきたら実験できる環境を整える。実験の材料、機械を整える。実験をする。うまくいかない場合は考え方を変えて、新たなアプローチで実験をする。結果を積み重ねる。データをまとめる。論文を書く。投稿する。ジャーナルとやりとりをする。論文がジャーナルに掲載されてようやくゴールとなる。
このように研究を完成させるまでには、持久力、粘りや根気が求められる。環境科学研究所の駅伝チームが弱くなかったのは、メンバーのほとんどが研究に携わっていた集団だったからかもしれない。
駅伝のたすきを胸に仲間にそれを渡すために必死で走った濃密な時間を僕は今もしっかりと思い出すことができる。