マイクロプラスチック問題をはじめとして, 廃棄物が大きな社会的問題となっています. こうした中, ポイ捨てごみの分布と環境影響を見たり, プラスチック粒子の水からの除去法, 都市鉱山と言われる電子廃棄物から金を取り出す新しい手法の開発を行ったりすることで, ゴミの問題を解決すべく研究を進めています.
研究紹介 ポイ捨てごみを科学する!
道路に捨てられたポイ捨てごみに着目し, 大学周辺のポイ捨てごみの分布を見るとともにポイ捨てごみがどれほど環境を汚染しているのかを分析しました. 結果, ポイ捨てごみはスーパーや深夜まで営業している店の駐車場周辺に多く分布しており, そのほとんどが捨てられたタバコの吸い殻であることがわかりました. そこで雨水によりポイ捨てされたタバコの吸い殻から溶出してくる環境汚染物質がないか分析を行いました. 毒性の高いニコチンやヒ素が溶出することが確認できました. 小さな不法投棄であるタバコのポイ捨てが積み重なると環境を汚染する可能性があることが分かりました.
Hiroshi Moriwaki, Shiori Kitajima, Kenshi Katahira; Waste on the roadside, ‘poi-sute’ waste: Its distribution and elution potential of pollutants into environment, Waste Manage., 2009, 29, 1192-1197.
研究紹介 ナノプラスチックをリンゴで取り除く!
環境に放棄されたプラスチックが細かくなったマイクロプラスチックによる汚染が海洋で拡がっていることが大きな社会問題となっています. このマイクロプラスチックがさらに細かくなってナノサイズ (10-9 m)となったものをナノプラスチックと言います. ナノプラスチックが環境中にどの程度, 存在しているかは分析の困難さから明らかになっていませんが, マイクロプラスチックよりもはるかに多く存在していると考えられています. ナノプラスチックを魚が体内に取り込んだ際, 脳にそれらが蓄積するという報告例もあり, ナノプラスチックの生物への影響が危惧されています. しかし, その除去法についてはこれまでほとんど報告されていません. そこで, リンゴの皮に多く含まれている成分であるペクチンと鉄イオンを用いて, 水中に分散しているナノプラスチックを集めて大きな粒子とし, それを沈殿させることによりナノプラスチックを水中から除去する方法を開発しました. この方法はペクチンが植物の作り出す成分であることから 環境への残留性も低く, 環境にとってマイナスの少ない除去法だと考えられます.
Hiroshi Moriwaki, Naoya Komori, Yoshitake Akiyama; Interaction between nanoplastics and pectin, a water-soluble polysaccharide, in the presence of Fe(III) ion, J. Environ. Chem. Engineer., 2022, 108054.
研究紹介 都市鉱山から金を取り出す新しい方法
近年, 電子機器の廃棄物など金をはじめとした有用な資源を多く含むゴミは”都市鉱山”と呼ばれることもあります. 電子機器の部品には金がよく用いられていますが, 金を抽出することは困難であり, 王水やシアン化物など有害な物質が用いられます. そこで有害な物質を使わずに簡易に金を抽出する新しい方法を開発しました. 細胞膜の成分であるDOPCと塩を緩衝溶液に溶かし, その溶液に金を含む部品を電極として浸漬した後に5秒間, 100 Vの交流電圧をかけることにより, 金がナノ粒子となって水中に分散しました. この方法は環境に負荷をかけないまた安全な金抽出法として有用であると考えています.
Hiroshi Moriwaki, Kotaro Yamada, Hisanao Usami; Electrochemical extraction of gold from wastes as nanoparticles stabilized by phospholipid, Waste Manage., 2017, 60, 591-595.
研究紹介 構造色でカラーインクのいらない時代へ!
モルフォ蝶の美しい羽の色は羽の表面にある微細な構造が光を反射することで発生します. このように色素や染料を用いず, 構造により形成される色のことを構造色と言います. この構造色を様々な材料に適用することにより有害な物質を含む染料を用いなくてすみます. このことは環境保全のために役立つと考えられます. しかし, こうした構造色を材料の上に形成させることは手間や時間がかかり, 難しい作業を必要としました. そこで, 簡易に短時間で構造色を再現性良く作る新しい手法を開発しました. 鉛筆の芯にプラズマを照射することにより, 鉛筆の芯の表面に存在するグラファイトが削られ, 粘土が残ります. この粘土がちょうどシャボン玉の膜のような薄い膜となって芯の表面を覆います. これが構造色を形成することを発見しました. また, 紙の上に鉛筆で塗った部分にプラズマ照射すると, やはり構造色が出来ました. このように鉛筆という身近な材料を用いて数分間, プラズマを照射するだけで構造色が形成することが分かりました. 構造色が簡単に誰でも作ることができます. この方法はカラーインクを使わずに着色するというサスティナブルな技術になるのではないかと期待しています.
Hiroshi Moriwaki, Tomoya Kamine, Yukari Kawabe, Yusuke Okada; Structural color on pencil lead formed by plasma etching, Advanced Optical Materials, 2022, 10, 2102127.
Hiroshi Moriwaki, Tomoya Kamine;“Plasma-structural coloring” of penciling on a paper, ACS Appl. Mater. Inter., 2023, 15(3), 4781-4788.