新しい論文を Frontiers in Nutrition 誌に発表しました。
カイコ幼虫から調製したパウダーに関する次の論文をオープンアクセスジャーナルの Frontiers in Nutrition 誌に発表しました。「Evaluating bio-physicochemical properties of raw powder prepared from whole larvae containing liquid silk of the domestic silkworm」
(https://www.frontiersin.org/journals/nutrition/articles/10.3389/fnut.2024.1404489/full)
第一著者の一人である橋本さん(当時学部4年生)による論文解説およびコメントを掲載します。
私たちは,カイコ5齢幼虫凍結乾燥粉末(以下B100rw)の作製と生物物理化学的特性の評価を行い,B100rwがカイコの全組織に加え摂食した桑成分も含む一物全体の試料であることを成分分析より明らかにしました。また,市販品を再現した幼虫粉末(B100dn)との比較から,B100rwのみが酵素活性を示すことや,含有シルク成分が繊維化前の液体状態と類似した稀な構造をとることも明らかにしました。これら発見はB100rwが生きたカイコ幼虫に特有の特徴を維持していることが示唆しています。
研究や執筆に当たっては初めてのことばかりで試行錯誤の繰り返しでしたが,同時に研究の面白さやカイコの秘めた可能性に気づかされました。特に印象深いのは,最初に行ったトレハラーゼ活性測定でした。B100dnは呈色せずB100rwのみ活性を示す呈色反応が現れ,初めて自身の力で期待通りの結果を得ることができました。酵素反応は二糖を単糖へ分解する単純なものですが,この時は嬉しさと共にに「B100rwは活性が生きている」という感動と大きな衝撃を受けました。同時に,実験の面白さやB100rwの有用性の一端に触れるのには十分な経験でした。そしてその後の様々な検証を通してB100rwのカイコ幼虫の特徴を反映した唯一無二の価値が明らかになると,「絹糸腺内に液体状のシルクを持ち,桑を食べている」などカイコ幼虫由来だからできる様々な利用方法に気づかされました。この気付きは私のカイコに対する考え方を大きく変えるきっかけとなり,この経験がカイコを誰も見たことのない様々な形・方法で加工や利用するという現在の研究の原動力となっています。
本論文は,カイコの様々な利用法開発の第一歩となることを期待して執筆されました。私たち研究室ではこの論文を起点として,カイコの利用価値を広げてゆけるようにさらに応用的な研究へと進んでゆきます。今後の研究の発展にご期待ください。